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風邪をひきたくない
風邪をひきたくないから マスクをする
風邪をうつしたくないから マスクをする
いつからか 当たり前となったことは
それだけじゃない
大事な人の電話番号も
憶える必要が無くなった
こんな便利な時代に
また僕は何かを置き忘れる
天気予報も今日のニュースも
聞けばすぐに AIスピーカーが教えてくれる
こんな便利な時代に
また僕は何かを置き忘れる
ああ、いつからか
ああ、自分がルーティーンという砂嵐の中に
消えていくような、そんな恐ろしさというより、むなしさに
キーボードの上で、あきらめかけた指がくしゃみをした
そして、やっぱり僕はまた
風邪をひきたくないから マスクをする
風邪をうつしたくないから マスクをする
▼批評・マエケン先生▼
このポエムはまだ新型コロナの話題が出る一年以上前の作品で、作者にとってはまさか今のようなみんながマスクをつけて職場でデスクワークをするような、こんな時代がくるとはこの時期には予想すらできなかったはずだ。
だが、まるでそんな未来を警告するかのような、このポエムの終わり方は、今の私たちに大事なことを語りかけているように思えて仕方が無い。
「風邪をひきたくない」と思っている作者は、いつの間にかマスクをつけることが当たり前になっている自分に気がつき、
「これが当たり前のことでいいのだろうか…?」と、思い悩み始める
この世界にあふれる当たり前になってしまった雑多な日常に、作者は大事な何かを置き忘れていく。
それは何か。ポエムでは後半にこう述べている。
「ああ、自分がルーティーンという砂嵐の中に 消えていくような、そんな恐ろしさというより、むなしさに…」
そう、それは自分自身であり、自己の存在、アイデンティティーとも言えよう。
ここで、作者の諦め欠けた指は、キーボードの上で「クシャミ」をする。
そう、マスクをして対策をしている作者に、その指は風邪をひいて見せたのだ。
「そんなマスクに気をとられ、日常の便利の中に埋もれて、君は自分を無くしていないかい?」とでも言いたかったのであろう。
それでも作者は、砂嵐の中に自分を置いたまま…、結局変わらなかった。
その結果、迎えた新型コロナ時代。きっと、あの指が怒ったに違いない。
私たちはもう一度、自己の存在が、何をするために今生きているものなのか。この時代、立ち止まって見つめ直さなければならないと思う。
もしそれができないならば、次はあの指は何を起こすだろうか?
Poem001 ホカホカ奇跡
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